易経をより身近に感じて頂けるように、易経の言葉を掲載しております。易経には、味わい深く、魅力的な語句がたくさんありますが、本卦から十翼の広い範囲で、特にこれは!という一節を選んで取り上げます。
〔二人心を同じくすれば、其の利きこと金を断つ。心を同じくするの言は、其の香、蘭の如し〕
少し長い文ですが、この言葉は、周易翼伝の繋辞伝に登場します。繋辞伝には魅力的な言葉が多いので、本稿で名言を選ぶ時に、ついつい偏ってしまいがちです。
訓み下し文は、次の通りです。
同人。先には號咷し後には笑う。子曰く、君子の道、或いは出で、或いは処り、或いは黙し、或いは語る。二人心を同じくすれば、其の利きこと金を断つ。心を同じくするの言は、其の香蘭の如し。
この一節は、繋辞上伝・第八章で、☰☲天火同人の五爻を詳しく解説している部分です。
まずは、天火同人五爻の爻辞を思い返してみますと、先には泣くことがありますが、後には二爻と和合することが出来て、喜んで笑うという場面です。剛健中正の五爻と柔順中正の二爻が応じているので、息もぴったりといったところでしょうか。
こんな理想的な〔同人〕になると、固い絆は、硬い鋼(はがね)をも断ち切るほど強く、そして、二人の交わす言葉からは、蘭の花のような、ふんわりとした可憐な香りまで漂って来るという表現です。
力強い結束は、剛の部分を表現し、花の香りは、陰の部分を現しているのだと思います。読んでいるだけで、なにやら、かぐわしい香りがして来そうですね。五感に響き、嗅覚にうったえかける文章です。
蘭は、気品があって、高貴な印象の花ですね。また、蘭の香りは、カサブランカなどスパイシーな強めな香りの蘭もあれば、胡蝶蘭のように、かすかに優雅でおだやかな香りもあります。
まさに、天火同人という卦名が、八卦の☰乾も☲離も、同じく上昇する性情を持っているもの同士だからだと納得します。
現在、俗的に使われている、心を許すような親友のことを「金蘭の友」といったり、「断金の交わり」、「金蘭の交わり」といった慣用句は、この易経・繋辞伝から生まれたそうです。易経は、慣用句にも息づいています。
一般的にも、性格が似ているとか、気が合う同士を見た時に、「同じにおいを感じる」という表現をします。
将棋をする人は、個性的な人が多く、他の人から見たら、将棋指しは、同じにおいがすると言われます。私たち、易を嗜む人も、同じにおい、香りがすると良いですね。同じ趣味や志を持った同人なら、このような関係にみえることが理想ということです。
育ってきた環境が違っていても、同じような価値観になっていくのでしょう。そして、心から理解し合える関係になったら、真の〔同人〕になったと言えるのです。
香りや、においは直感的な情報
また、においというものは、目に見えないものですが、人間の内的部分とつながっているようです。においで、直感的に分かるときがあります。
香りやにおいは、記憶にも連動します。書道の墨のにおい、美術室の油絵の具のにおい、お天道様にしっかり干された布団のにおい、もちろん、筮竹の香り。そして、子供の頃、木のぼりした木や草のにおい。祖母の家の蚊取り線香のにおい。可愛がっていた犬のにおい等等、五感は記憶に残るものです。日本には、仏教の影響でお香の文化があります。最近では、フェロモンだったり、アロマだったりが流行しています。アロマは精神的リラックス効果が認められ、心理学との連携や、脳を刺激する効果を大学などの機関でも研究されて、注目されています。
ただ、☰乾も☲離も上へ向かう性情ですが、同じ性情といっても、☵坎と☷坤は同じ下へ向かう性情ですが、これは「同人」とはならず、☵☷水地比として親しむ程度に考えているところが卦の面白さだと感じました。易経、易占を勉強していて、すべて同じ方程式が使えないというのが難しくもあり、そこが妙味でもある点です。学べば学ぶほど、奥が深い易経、易学の魅力が味わえます。本当の生涯学習です。(磯部周弦)
日本易学振興協会では、東京などで本格的な筮竹を使った周易・易占教室を開催しています。詳細はこちらからどうぞ。
日本易学振興協会へのお問合せは、こちらから日本易学振興協会のサイトの管理運営担当です。まだまだ易占、易学の修行中、精進してまいります。伝統ある筮竹を使う周易を次の時代へつないでいきたいと思います。