経典としての易経は、四書五経のなかでも、尊ばれる書物とされてきました。
「四書」とは『論語』『大学』『孟子』『中庸』の四つの書物です。 また、「五経」とは『易経』『書経』『詩経』『礼記』『春秋』の五つです。
易経の歴史は、今から3100年前の紀元前1100年ごろ、殷(いん)の最後の王であった、紂王(ちゅうおう)を文王と武王が倒して、周(しゅう)王朝を築いたあたりといわれています。
易経が本格的に作られたとされる周の前は、殷です。
殷においては、王の祖先が神である帝とつながり、民に災厄をもたらしたり、恩恵を与えていると考えられ崇められていました。
この考え方は周代における「天の思想」によってさらに発展していきます。このことは、周易の首卦が乾為天であることからも分かります。
前1046年頃。周は、牧野の戦いで殷を倒しますが、殷の滅亡は、天命を失った結果であると考えます。
周が殷を倒す歴史は、中国の古代史において重要な転換点です。
紂王は、帝辛とも呼ばれます。始皇帝とならんで、暴君とみなしがちですが、その前は名君だったという解釈になっています。それは、兄を差し置いて即位したのは、力があり、立ち回りも機敏で、洞察力もあったためです。
異民族を討つために、東や東南に、何度も遠征を行った記録があることからも分かります。
しかし、周が殷を討つには、大義名分が必要であり、また歴史は前の王朝を批判することもパターンになっています。
君主とは、天命をうけた人であり、天子でなければなりません。
周が天下を手に入れたのは、天命を授かったからだとする理論を形成しました。
そのため、周の人は、殷の氏族神である帝を超えた存在として「天」を認識するようになったのです。
易経には、☱☲澤火革(たくかかく)という改める、改革の卦には、もちろん、殷の紂王を倒した、周の武王のことが、彖伝に書かれています。
そして、興味深いのは、その前の殷初代の王である湯王(とうおう)が、夏王朝の最後の暴君・桀王を破ったことも並び賞されています。どんどん、横道にそれてしまって、恐縮ですが、この湯王は、禹王、文王、武王と並び聖王とされている人です。聖王とは、儒教が理想とした王道政治のことです。湯王には、こんな逸話もあります。ある領地で四方に網を張り、祈って鳥を獲っている狩人がいました。これでは鳥が絶滅してしまうと言って、三方の網を外したという。鳥獣にまで気を配って徳が高いと伝えられました。『史記』『書経』より。
これは、易経の☵☷水地比 九五の爻辞「王、三駆を用いて前禽を失う」に似ていると思いませんか?
易経の辞にも、歴史がうかがえます
話を戻しましょう。易経の爻辞は、大別すると、①神秘的な話、②儒教者が喜ぶ話、③歴史的な話、④象を重んじた話などに分類ができます。
そのなかでも③歴史的な話、には、殷の時代、周の時代のことが載っています。歴史観を理解することで、呪術的な意味合いも含まれる①神秘的な易経の爻辞が分かってきます。
さらに、殷を反面教師として創建した礼の国である周が分かるので、②の儒教的な話の理解度も深まるのではないかと思います。
周易を学ぶ私たちは、礼の国・聖君の治世だった周を規範としていくべきですが、殷王朝も興味がわくところです。
その理由は、占いイコール祭祀がより盛んだった殷代は、占い師としても、とりわけ素通りできません。
易経とは少し離れますが、文王の逸話としては、太公望が有名です。
文王(西伯)は太公望(呂尚)が釣りをしていたところで出会い、仕えてくれとたのむ場面です。
文王の父(太公)が待ち望んでいたような聖人で、自分の国を発展させてくれるだろうと語るのです。
史記で紹介されている歴史の一場面です。
さて、その周の文王が易経の64卦に彖辞(卦辞)をつくり、周公旦が384爻に爻辞(こうじ)をつくったといわれています。易経をつくった文王は賢く、殷を倒した武王は力強いという印象から、文武両道という言葉の語源となりました。
そして紀元前500年ごろ孔子が彖伝(たんでん)や象伝(しょうでん)繋辞伝、文言伝、説卦伝、序卦伝、雑卦伝の十翼をつくり、3000年以上も愛される易経となったのです。〔伝〕とは経書の注解であり、易経の経とは縦糸のことです。つまり人の道、倫理であり、経書とは倫理書といってもおかしくなく易経は占いの書であるにもかかわらず、五経に選ばれるほどで、しかも『易経』『詩経』『書経』『礼記』『春秋』と首にあげられるほど尊ばれています。
思想的な解釈もできますが、易経は始皇帝の焚書坑儒を免れたことから、占筮としての面が強かったといわれています。始皇帝は、儒学ではなく、法で国を治めようとしたため、400人以上の儒学者を埋めてしまい、儒教的な書も焼きましたが、法、医学、農業、占卜の書は焼かれなかったそうです。
日本易学振興協会へのお問合せは、こちらから日本易学振興協会のサイトの管理運営担当です。まだまだ易占、易学の修行中、精進してまいります。伝統ある筮竹を使う周易を次の時代へつないでいきたいと思います。